今回はLCRネットワークにまつわるお話をしたいと思います。
私がまだ高校生のころ、まだオーディオにはそれ程強い関心があるほどではなく、当時はバイクに夢中でいたころの話です。
クラスメイトの中に自称オーディオマニアという同級生がいて、その友人宅に遊びに行ったときのことです。
友人の部屋には自慢のステレオが置いてあり、当時まだステレオなんて持っていなかった私にとっいて未知の物でした。
その友人がスピーカーに付いたつまみをぐるぐると回していたので、何も知らない私は友人に尋ねたのです。
「何してるの?」
こう尋ねた私に対し、友人は自信満々なドヤ顔で答えたのです。
「スピーカーのチューニングをしているのさ!」
当時は何の話かわからない私はただ聞いているだけでしたが、今思えばアッテネーターのつまみを動かしていただけの話です。
2ウエイや3ウエイの場合ユニット間の能率の違いもあって、昔のスピーカーの多くにはアッテネーターが付いたものが多かったと思います。

でも最近はこのアッテネーターが付いていないモデルが多くなりました。
理由はひじょうに簡単です。
このアッテネータが音楽信号に悪影響がとても大きく、音を劣化させやすいのです。
そのような事もあり、最近は音質劣化を避けるため、アッテネーターの付いていないモデルが主流となったわけです。
しかしミッドレンジやハイレンジにホーンドライバーやホーントゥイーターを繋ぐ場合、どうしてもその能率が高いため、音圧レベルを合わせる意味でどうしても必要になります。
さて先日はお客様からご注文をいただいていた、ALTEC 604系のクロスーバーネットワークがアメリカから到着いたしました。

メーカーはALTECの生産設備をそっくり引き継いだGreat Plains Audio社の製品です。

ALTEC604系といえば、同軸2ウエイのユニットとして、未だにひじょうに人気の高いモデルですね。

ALTECの純正ネットワークには、画像にもあるように音圧レベルをあわせるためのアッテネーターが付いていました。
しかしこの純正ネットワーク、正直音質的にはあまり感心できる音がしないのも事実です。
たとえばP.AUDIOの同軸2ウエイユニットの裸特性を見てもらうとよく分かるのですが、赤線で描かれたホーントゥイーターのF特性はかまぼこ型であり、しかも青のウーハーよりも音圧が高いのがよく分かります。

ALTECの604系も基本的に同じような感じになります。
たとえばアッテネーターで調節をするとどうなるかといえば、このかまぼこ型の特性がそのまま低くなるのです。
しかしこのかまぼこ型の特性の場合、聴感上音圧の高いところの音がよく聞こえるわけですので、ハイエンドの高音域の伸びを感じにくく、スーパートゥイーターを付けたいと思うかもしれません。
これは定抵抗型、トランス型で音圧を調整しても基本的に同じなのですが、じつはLCR共振回路を用いる事により、このかまぼこ型の音圧を落としたい部分だけ平らに均すことが可能なのです。


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これはL. Cao 6.5" inch Alnicoを例にお話をすれば、たとえばフルレンジユニットでも高音域などの音圧が少し高めのものも中にはあります。
このようなものもLCR共振回路を用いて、その落としたい部分だけを綺麗に均すことが可能になります。


このLCR回路のコイル、コンデンサ、抵抗の値を変更する事により、コントロールしたい周波数や減衰量を調節する事ができます。
TADのユニットを用いたエクスクルーシブの2ウエイモニターがありましたが、これなども高音域のドライバーの特性をフラットに均して、音圧を合わせると同時に20KHzまできっちり特性を伸ばせるようにするため、クロスオーバーネットワークの中にこのLCR共振回路が組み込まれているのです。

これによりかまぼこ型の耳に付きやすい周波数の音圧を押さえ、音圧が低くて聞こえにくくなる高音域にレベルも合いやすくなるため、2インチという大口径のドライバーを用いながら、2ウエイの構成でも聴感上高音域まできっちり伸びた特性を実現する事が可能です。
またアッテネーターの必要がないため、音楽信号の損失も少なく音質的に優れているのです。
じつはGreat Plains Audio社が作るALTEC604系ユニット用のネットワークも、この音質を悪化させる要素が高いアッテネーターを排除し、しかも604系のユニットをフルレンジのように鳴らすことができるように、クロスオーバーネットワークにLCRの共振回路が組み込まれています。

これにより、ALTECの純正ネットワークに比べアッテネーターが無い分音質的に優れているだけではなく、聴感上も高音域の伸びを感じやすいなど、ALTECの604系の純正代替品というより、オリジナルよりもハイクォリティーな音質が得られるため、グレードアップ品として考えてもいいかもしれませんね。
604系の純正ネットワークの場合、高域の伸びが感じにくくナローレンジに聞こえますので、なんとなく古臭い音質に感じやすくなります。
それがオリジナルの味だとお考えの方にはお勧めはできませんけど、ユニットの能力を最大限に引き出してみたい方にはお勧めできるもんかもしれませんね。
しかも同軸2ウエイでありながら、まるでフルレンジユニットのように扱えるなど、意外と使いやすくなるのもメリットかもしれませんね。
ちなみにGreat Plains Audio社現在生産する604系の復刻版ユニットも、このクロスオーバーネットワークがはじめから付属していますので、その使い勝手はフルレンジユニットとほとんど同じです。

さてこのクロスオーバーネットワークは、Great Plains Audio社が作るALTEC604系復刻版だけではなく、ALTEC604シリーズのグレードアップ用のネットワークとしても対応可能な製品なのです。
はじめの方にも話しましたが、このネットワーク内に組まれたLCR共振回路ですが、本来なら複雑な計算式の説明など必要ですけど、説明だけでかなりのボリュームにもなりますので割愛させていただきますが、音質的な悪影響が少ない方法のひとつですので、興味のある方はぜひチャレンジしてみてください。
もちろんぐりぐりとツマミを回すのが至上の喜びと感じるマニアの方にはお勧めできない事ですけどね。
さて今回はここまで。
また楽しい話をしたいと思います。
前回は、ALTECのエンクロージャーの一部に関してお話をしました。
ALTECといえば数多くの名機が生み出され、今でも多くの方に熱い支持を受けている人気ブランドです。
そんななかALTECらしいシステムといえば、A5やA7などのボイスオブシアターを思い浮かべる方も少なくありません。

ボイスオブシアターとして名を馳せ、日本でも人気の高いシステムです。
このシステムにはA5に代表されるALTEC 515系 またA7に代表されるALTEC 416系の二つの系統があり、どちらも鳴りっぷりのよさを感じさせる素敵なシステムです。
さてこのA5やA7に使われている515系や416系のウーハーですが、中にはコンディションを崩したり、または破損したりして、現役当時の実力を出し切れないものも多くなってきました。
今は多くの中古ユニットが国内市場にも出回り、意外と見つけるのは苦労はしません。
しかしオーディオマニアの方ならご存知の方も多い事ですが、ユニットの使われ方や鳴らされ方によって音がぜんぜん違うというのもよくある話です。
元気がいいはずのユニットが、なぜか元気がない。
繊細な音のするユニットのはずが、なぜか荒削りな音になってしまうなど、それまで鳴らされてきた音楽ソースやアンプにより、長年蓄積された固有の音色傾向に馴染んでしまうこともあります。
もちろん矯正的に鳴らしこめば馴染むことはあるのですが、左右同銘柄ユニットを別々に手に入れた場合、時には別物のように聞こえてしまう事も少なくありません。
何年も地道に探せばGoodコンディションの中古ユニットをペアで見つける事は出来ますけど、ペアで揃えることは出来ても、たとえばダブルで使用される方だと4本揃えなければならず、そうなると一気に敷居が高くなります。
それならと同じ方向性のユニットを新品で探しても意外と少なく、ちょっと使い方は特殊ですが、同傾向でALTECを凌駕するハイスペックの励磁型時期回路を持つ新生マクソニックという選択肢もあります。

これだと取り付け寸法などもほぼ同じですし、見た目もほぼ変わりませんのでALTECの代替の選択肢の一つです。
しかしユニット単体の能力は、ハイパフォーマンスなALTEC515系よりも遥かに上手で、逆にALTECの他のユニットよりも抜きん出てしまう可能性があり、そうなると全体のバランスを崩しかねません。
それならドライバーもトゥイータも同時に変えてしまえばいい事なのですが、さすがにユニット単体の価格も性能に比例して高くなるもので、ポンと買えてしまうセレブの方ばかりではありませんから、これもまた敷居の非常に高い選択です。
そんな時Great Plains Audio社のユニットがベストな選択肢ではないかと思います。

会社は別会社でブランドにもALTECが入りませんけど、ALTECの生産設備をそのまま引継ぎ、現在ALTECの古いユニットの修理やメンテナンスなどのアフターフォローも行っておりますので、そのような意味ではALTEC直系のメーカーなのです。


生産方法なども当時のままですので、ブランドロゴだけ違うALTECの復刻版ともいえます。
これだと現在でも新品で手に入れられるため、手持ちのユニットが調子を崩してしまって代替ユニットを探しているというのであれば、コンディションを気にせず手に入れられて、しかも新品ですので自分流の音に鳴らし込むことだって出来ます。
しかしALTECの515系は、そのパフォーマンスとは裏腹に、やや扱いにくい面も多少あるため、お気軽に使いこなせるユニットではありません。
特にA7など、ALTECの416系を使われてきた方にとっては、グレードアップにと手に入れても、そのキャラクターの違いに戸惑う事も少なくありません。
そんなALTECの416系代替なら、やはり同じ416系の方が使いやすいのではないでしょうか。

磁気回路もAlnicoを使っていますし、ALTEC416系のフェライト磁気回路のユニットからのグレードアップにも最適かもしれません。
515系と違い磁気回路がそれほど強くないため、低域の切れやスピード感などは515系には劣りますけど、中音域まで暴れない特性は、比較的使い易いユニットといえます。
同軸2ウエイで有名な604系は、基本的に416系と同じですので、そのような意味でもかなり定評のあるユニットなのです。
逆に515系に手を焼いてしまう場合なども、基本的に同じ音色傾向にある416系という選択肢もあります。
顔つきは瓜二つのユニットですが、その音の傾向はかなり違うというのものの、やはり同系の音色が出てきます。
JBLになると同じアメリカ系でも音の傾向もかなり違ってきますので、ALTECの代替というにはあまりお勧めできない組み合わせかもしれません。
コンディションを心配して手持ちのALTECを思い切り鳴らす事が出来ないのであれば、思い切って新品ユニットを鳴らすのも楽しいのではないでしょうか。
ゴールデンウイークという中で、私もそんな妄想に明け暮れる日々をすごしているのです。